「AIで速くなるなら外注は要らないのでは」と聞かれた方へ
オフショア開発や外部委託を使っていて、社内から「生成AIで実装が速くなるのに、まだ人を並べる外注が要るのか」と問われている発注側の方に向けて書いています。
この問いには、市場がすでに答えを出しています。ただしその答えは「要らない」でも「要る」でもなく、買い方を変えろでした。
2年で半分になりました
インドのIT大手5社――TCS、Infosys、Wipro、HCL Technologies、Tech Mahindra――の時価総額合計は、2024年8月の33.71兆ルピーから2026年7月の18.15兆ルピーへ下がりました。下落率は46%です(Business Today 2026年7月4日)。
主要各社は、それぞれの最高値から約50%調整しています。5社を足した額は、石油化学のリライアンス1社(17.65兆ルピー)とほぼ並びました。世界のシステム開発を長年引き受けてきた産業が、他業種の1社と同じ大きさに評価し直されたということです。
需要が消えたわけではありません
ここを取り違えると、判断を誤ります。
JP Morganはこの下落を「AIデフレ」と呼びました。デフレというのは、仕事の量ではなく値段が下がることです。同社はAIデフレがまだ2年目であり、今後2年はさらに逆風になり得るとしたうえで、大手の成長率見通しを3〜4%に置いています。マイナス成長の予測ではありません。
案件が消えたのではなく、同じ案件が安く売られるようになった。それが46%の中身です。
速くなった分は、顧客への値下げになっています
生成AIで実装の工数が減ったとき、減った分は誰のものか。
人数×期間で請求する契約では、この問いに答える必要がありません。工数が減れば請求額が減る。それだけです。売り手が生産性を上げるほど売上が下がる構造なので、上げた分は利益に残らず、次の入札で値下げとして提示されます。Business Todayが指摘するのも、生産性向上分が利益ではなく顧客へ渡っているという点でした。
これは効率化の失敗ではありません。契約が設計どおりに動いた結果です。
市場が値を下げたのは業種ではありません
人月という単位そのものです。
人数×期間で請求する限り、速くなったことが売り手の利益になる経路は、契約のどこにもありません。
発注側にとって、値下げは得とは限りません
売り手の値付けが下がるのだから、買い手は得をしたはずだ、と読みたくなります。ただ、値下げ交渉で手に入るのは「同じものを安く」だけです。
生成AIで速くなった意味は、本来そこにありません。同じ予算で作れる量が増える、リリースの間隔が縮む、仕様を詰める時間が取れる。こちらを取りにいくなら、値段を下げる交渉ではなく、単位を変える交渉が要ります。工数課金から成果対価へ移す設計は開発が速くなった分は誰のものかで、実装が縮んだあとに何が重くなるかは実装が速くなった今 受託開発は何を売るのかで書きました。
エージェントの時間単価が人の単価を下回った件も、結論は同じでした。単価表の比較では発注の判断ができません(エージェント1時間6ドル 人は10ドル)。
ベトナムを「安いインド」と読むと、同じ道をたどります
再評価されたのは国でも地域でもなく、人を並べて時間で請求するモデルです。ベトナムを「インドより安い次の供給地」として選ぶなら、数年後に同じ再評価が待っています。
そもそも外に出す理由は単価ではありません。国内で採れないからです。経済産業省の試算では2030年に最大約79万人のIT人材が不足します。この前提と、ベトナムを選ぶ場合の見方はベトナムオフショア開発を 単価ではなく採用で考えるにまとめてあります。給与水準がベトナム国内で2番目に高いこと(ベトナムのIT給与は国内で2番目に高い水準です)、情報通信業が下請け構造の産業ではないこと(ベトナムのIT産業は下請けではありません)も、単価から入ると見落とす部分です。
見積もりを受け取ったときの確認
人月表が提出されたら、値下げ交渉に入る前に次の5つを確認してください。
人月見積もりを受け取ったら確認する5項目
- 単位: 人数×期間以外の課金単位を提示できるか。できないなら、その理由は何か
- AIの取り分: AIの利用で工数が減ったとき、減った分は値下げになるのか、成果物の量が増えるのか。どちらか契約に書いてあるか
- 速さの行き先: 実装が早く終わった場合、空いた時間は何に使われるか。仕様の詰めか、テストか、次の開発か
- 決める工程: 何を作るかを決める工程は、見積もりのどこに入っているか。人月表に載っていないなら誰が持つのか
- 止める判断: AIが生成したものを誰がレビューし、どこで差し戻すか。その工数は含まれているか
上の2つが空欄のまま人月表だけが出てきたら、値下げ交渉以外の選択肢がない契約です。発注前に埋めてください
買い方を決めるのは、まだ発注側です
46%という数字は、売り手の危機として読まれがちです。ただ、人月という単位を選んでいるのは発注側でもあります。稟議の書式、比較の作法、相見積もりの並べ方。ここが人数×期間のままなら、市場がどれだけ値付けを変えても、手元の契約は変わりません。
いま人月表を並べて比較している段階でしたら、お問い合わせからご相談ください。何を単位にすれば速さが自社の得になるのか、稟議に載る形から一緒に整理します。
