オフショアの単価表を並べている方へ

各社の単価表を横に置いて、どこが安いかを比べている段階の方に向けて書いています。

その比較の前に、ひとつ前提を確かめてください。ベトナムのIT人材が、ベトナム国内でどのくらいの給与水準にいるかです。ここを「新興国だから全体的に安い」と置いたままだと、単価差の意味を読み違えます。

国内2位、全産業平均のちょうど2倍

ベトナム財政省統計局が2025年11月に公表した企業白書に、産業別の平均月収が載っています(Sách trắng doanh nghiệp Việt Nam năm 2025)。

2023年の稼働企業における労働者の平均月収は、全産業で 1,160万ドンでした。産業別に見ると、順位はこうなります。

産業 平均月収
金融・銀行・保険 2,560万ドン
情報通信 2,330万ドン
専門・科学技術 1,480万ドン
医療・社会福祉 1,430万ドン
不動産 1,390万ドン
運輸・倉庫 1,340万ドン
(全産業平均) 1,160万ドン
製造業 1,060万ドン
建設 920万ドン

情報通信業は金融に次ぐ2位で、全産業平均のちょうど2倍です。建設業の2.5倍にあたります。

同じ「ベトナムの人材」でも、産業によって倍以上の開きがあります。国全体の物価や賃金水準から類推した金額は、IT人材には当てはまりません。

差は広がる方向に動いています

前年からの変化を見ると、方向が分かれています。

サービス業全体の平均月収は 1,330万ドンで 1.6%増。一方、製造業は 1,060万ドンで 0.2%減、建設業は 920万ドンで 1.9%減でした。全産業平均の伸びは 1.1% です。

上位の産業が伸び、工業・建設が横ばいか微減という形です。「ベトナムの人件費が上がってきた」という話は、産業を平らにならして語ると実態を外します。上がっているところと、止まっているところがあります。

数字の前提を2つ確認してください

この記事の数字を自社の判断に使う前に、2点だけ押さえてください。

ひとつは時点です。この平均月収は 2023年の数値で、白書の公表は2025年11月です。統計の性質上、企業の財務実績は集計に時間がかかります。2026年時点の水準は、これより上にあると考えるのが自然です。

もうひとつは対象です。これは企業に雇用されている労働者の平均で、日本企業がオフショアで支払う単価とは別のものです。単価には給与のほかに、社会保険、オフィス、管理部門、日本側の窓口、そして利益が乗ります。給与の2倍が単価になるという比率は業態によって変わります。

数字を受け取る側の確認の仕方は、AI開発の生産性200倍は何を測った数字かでも扱っています。

単価表を受け取ったときに確認すること

オフショアの単価表で確認する5点

  • 単価の内訳: 給与・保険・管理費・日本側窓口・利益の比率。総額だけでは比較できない
  • 想定する人材の等級: 経験年数と役割。「エンジニア単価」の中身が3年目と8年目では別物
  • 昇給の前提: 契約期間中に単価が上がる条件。年次改定の有無と上限
  • 為替の扱い: 円建てかドル建てかドン建てか。変動した場合にどちらが負担するか
  • 稼働の定義: 月あたり何時間で1人月か。残業と休暇の扱い

相見積もりの比較表にそのまま列として足せます。総額が近い2社でも、内訳を並べると別物だと分かります

3つ目の昇給の前提は、長期の開発では効いてきます。IT給与が国内上位で伸びている以上、単価が数年間まったく動かない前提のほうが不自然です。

現場メモ

私たちがベトナム側の採用で実感しているのは、給与水準そのものより「競合の相手が変わった」ことです。以前は同じオフショア企業と人材を取り合っていましたが、いまは国内の事業会社やプロダクト企業とも競合します。白書の数字で情報通信業が国内2位にいるのは、その競合の結果です。

そのため見積もりでは、単価を下げる方向ではなく、同じ費用で何を残せるかを説明するようにしています。要件整理の記録、評価データセット、レビュー履歴といった、次の変更を安くする資産のほうです。

安さで比較されると弱いのは自覚しています。それでも単価だけの勝負に乗らないのは、単価を下げた分は必ずどこかの工程を削って捻出することになり、削られるのがたいてい確認工程だからです。

比べるべきは単価ではなく内訳です

ベトナムのIT人材は、ベトナム国内で見ても最上位の給与水準にあります。「新興国だから安い」という前提は、少なくとも情報通信業には当てはまりません。

そのうえで単価に差が出るなら、理由は人件費以外のどこかにあります。管理体制か、利益率か、あるいは見積もりに入っていない工程か。差の理由を説明できる会社を選ぶほうが、総額の小さい会社を選ぶより安くつきます。

このシリーズでは、ベトナム統計局の企業白書2025をもとに3本を書いています。次はベトナムでは1年で21,608社が解散しましたで、発注先が数年後も存在するかをどう確かめるかを扱います。3本目のベトナムのIT産業は下請けではありませんでは、国内でのIT産業の位置を財務指標から見ます。

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