発注先を決める直前の方へ

候補が2〜3社に絞れて、そろそろ契約という段階の方に向けて書いています。

この段階で確認が抜けやすいのが、その会社が数年後も存在するかです。開発は納品して終わりではなく、運用と改修が続きます。作った会社がいなくなると、引き継ぎのコストは発注側が全部かぶります。

ベトナムの公式統計を見ると、この確認を省略できない状況にあることが分かります。

参入も退出も、同時に増えています

ベトナム財政省統計局の企業白書2025から、2024年の企業動態です(Sách trắng doanh nghiệp Việt Nam năm 2025)。

動き 2024年 前年比
新規設立 157,240社 1.3%減
事業再開 76,179社 30.4%増
登録休業 100,098社 12.4%増
解散 21,608社 19.8%増

新規設立が減り、解散が2割増えました。ここだけ見ると縮小に見えます。

ところが、いったん止めた事業を再開した企業が 76,179社あり、こちらは3割増えています。市場に入ってきた企業は新設と再開を合わせて 233,419社でした。

止める会社も、戻ってくる会社も増えている。市場が縮んでいるのではなく、入れ替わりが激しくなっているという読み方が正しいと思います。

稼働企業の総数自体は 2024年末時点で 940,078社、前年から 2.0% 増えています。

集積地が動き始めました

地域別の数字に、もうひとつの変化が出ています。

ホーチミン市は 269,874社で全国の 28.7% を占めますが、前年から 1.2% 減少しました。一方でハノイは 196,836社で 2.4% 増。63省中55省で企業数が増え、伸び率の首位はフンイエン省の 11.2%増でした。

最大の集積地が減り、周辺と地方が伸びる。オフショアの委託先を「ホーチミンかハノイか」で考えてきた前提が、少しずつ変わりつつあります。

より新しい数字も出ています

白書の集計は2024年末時点ですが、統計局はその後、5年に1度の経済センサスの速報を2026年6月に公表しました(Kết quả sơ bộ Tổng điều tra kinh tế năm 2026)。

2025年12月31日時点で情報を収集した企業は 1,220,678社、そのうち稼働していて事業実績があるのは 859,048社でした。

白書の 940,078社と数字が違いますが、これは調査の定義が異なるためです。センサスは「事業実績のある企業」に絞っており、白書の「稼働企業」より範囲が狭くなります。2つを並べて増減を語ることはできません。同じ定義で追える系列を選ぶ必要があります。

なおこのセンサスは、初めて「デジタル転換・科学技術応用」に関する設問を加えたと明記しています。確報ではIT関連の実態がもう少し見えるはずです。

発注前に確認する5点

会社の存続を保証する方法はありませんが、公開情報で確かめられることはあります。

オフショア発注先のデューデリで確認する5点

  • 設立年と事業継続年数: 企業登記番号(Mã số doanh nghiệp)で国家企業登記ポータルから確認できる
  • 登記の状態: 「稼働中」か「一時停止」か。休業登録は年間10万社あり、珍しくない
  • 稼働の実態: 直近の納品実績、稼働中のプロジェクト数、オフィスの実在
  • 主要顧客の分散: 1社への依存度。その顧客が抜けたときに事業が続くか
  • 引き継ぎの条件: 契約終了時にソースコード・設計資料・環境構築手順をどの形で受け取るか

契約前チェックリストとして使えます。5つ目は契約書の条文に落とし込むところまで確認してください

5つ目が実務では最も効きます。会社が続くかどうかは相手の事情ですが、引き継げる状態で受け取っているかは自社で決められるからです。

現場メモ

私たちが引き継ぎの相談を受けるとき、いちばん困るのは、コードはあるのに「なぜそうしたか」が残っていない案件です。動いてはいるので止められない、でも触ると何が壊れるか分からない、という状態になります。

そのため自社の納品では、要件整理の記録とレビュー履歴を成果物に含めています。開発中は誰も読まない資料ですが、体制が変わったときに初めて価値が出ます。

正直に言えば、これは見積もりを高く見せる要因です。同じ機能なら、記録を作らないほうが安く出せます。それでも外さないのは、引き継げない成果物は資産ではなく負債だと考えているからです。既存システムがその状態になったときの調査手順はブラックボックス化したシステムをAIで読み解くにまとめています。

単価より先に、続くかどうかを見ます

2024年のベトナムは、解散が2割増え、再開が3割増えました。参入も退出も加速しています。この市場で発注先を単価だけで選ぶのは、確率の悪い賭けになります。

登記情報は誰でも確認できます。引き継ぎの条件は契約前なら交渉できます。どちらも契約後には手遅れになる項目です。

このシリーズの1本目はベトナムのIT給与は国内で2番目に高い水準ですで、単価の前提を扱いました。3本目のベトナムのIT産業は下請けではありませんでは、財務指標からIT産業の国内での位置を見ます。

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