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ロボット導入の提案で「非定型作業にも対応」と聞いた方へ
倉庫や店舗のバックヤードで、形の揃わない商品を扱う作業のロボット化を検討していて、「基盤モデルを使うので非定型の作業にも対応できます」という提案を受けている段階の方に向けて書いています。
非定型に対応できるかどうかの話ではありません。非定型と一括りにされている作業の中に、いま任せられるものと、まだ任せられないものが混ざっているという話です。9月9日に公開された研究計画が、その線引きを自分で書いています。
何が発表されたのか
メルカリは2026年9月9日、経済産業省とNEDOの生成AI開発支援事業GENIACの「ロボット基盤モデルの研究開発」枠に、AIロボットを活用した出品および検品作業の自動化の研究が採択されたと発表しました。研究開発組織R4Dが同日に解説記事を公開していて、本記事はそちらを主に読みます。
対象は越境取引の検品です。海外の購入者に売れた商品は、いったん国内のメルカリの拠点に集められ、検品してから海外へ送られます。この拠点を実証環境にして、人が行っている作業をロボットで自動化するのが計画の中身です。
検品作業とは、箱から商品を取り出し、複数の視点から写真を撮り、傷や汚れを確認し、出品ページの情報と照合し、サイズに合った箱に梱包する作業です。靴なら、解説記事はこう分解しています。
- 箱を開ける
- 中紙を開ける
- 靴を取り出す
- 靴の全面を確認する(写真を撮る)
- 靴を戻す
- もう片方の靴で3から5を繰り返す
- 中紙を閉じる
- 箱を閉める
人にとっては簡単です。ロボットにとって難しいのは、拠点に集まる商品のカテゴリが多く、状態や形状がばらばらだからです。布やカバンのような柔らかい物があり、ボタンやファスナーの操作を伴う作業も出てきます。解説記事は、あらかじめ決めた動きをプログラムして動かす従来のロボット制御では、こうした非定型作業の自動化は非常に困難だと書いています。
VLAでも残る3つの問題
そこで使うのがVLA(Vision-Language-Action)モデルです。カメラの映像と言語の指示からロボットの動作を生成するモデルで、基本的な仕組みと実演データの集め方は以前の回で書きました。
この解説記事で読む価値があるのは、VLAを使えば解決すると書いていない点です。現在のVLAを検品作業に当てはめると3つの問題が出ると、自分で挙げています。
- 力加減ができない。ロボットの行動がカメラの情報頼りで、商品の手触りや手応えを踏まえた力加減ができない。カバンのボタンの開閉のように力加減を要する制御は難しい
- カメラの位置が変わると動かない。学習したときのカメラアングルが実用の際に少しでも変わると、学習したロボットが適切な動作をできなくなる
- データ収集の効率が悪い。ロボットの遠隔操作でデモを集める方法は効率が悪い
2つ目は、行動の単位と規約の回で見た数字と重なります。あの論文では、背景や視点を変えた条件で、従来型のVLAの成功率は50%でした。3つ目は、人が数百回やって見せる工程がそのまま費用になる話です。
3つの対策と、発注側が聞くこと
3つの問題に対して、計画は3つの技術で対処するとしています。各行の太字が問題で、右の列は同じ問題を抱える提案を受けたときに聞くことです。
| 問題と、計画が採る対策 | 提案を受けたときに聞くこと |
|---|---|
| 力加減。力覚センサと触覚センサを付けたアームで、接触の状態や力加減を視覚・言語と結びつけて学習させる | 自社の作業に力加減が要る工程(柔らかい物、ボタン、ファスナー)が含まれるか。含まれるなら力覚・触覚センサはあるか |
| カメラの位置。推論時の任意の視点の映像を、AIで学習時の視点の映像に変換して合わせる(Camera Aware VLA) | カメラの位置は固定できるか。動かしたとき、再学習が要るのか、変換で済むのか |
| データ収集。スマートグラスやUMIという手持ちの器具で、一人称の映像と力触覚のデータを同期して集める。遠隔操作だけでは得られない技能を取り込み、機体の違いも吸収する基盤を作る | デモはどうやって集めるか。遠隔操作なら何回で、誰の工数か。人の作業をそのまま記録できる方法があるか |
3つのうち2つは、モデルの賢さではなく、センサと収集の仕組みの話です。提案書に基盤モデルの名前が書いてあっても、力覚センサが無ければ力加減は学習できませんし、カメラを固定できない現場では視点の対策が要ります。
最初は靴とトレカ、衣類とカバンは後です
計画で最も実務的なのは、順番です。解説記事は、まずばらつきの少ないカテゴリの商品、靴やトレーディングカードなどから実証実験を始め、将来的に衣類のトップス・ボトムス、カバンなど柔軟物を含むカテゴリへ拡大すると書いています。
ロボットに最初に任せる作業を選ぶ軸は、定型か非定型かではなく、品目のばらつきです。靴もトレーディングカードも、箱から出して撮って戻す作業は、決まった動きだけでは済みません。それでも形が揃い硬いので、力加減の問題を先送りにして始められます。衣類とカバンは、力覚と触覚のセンサとそのデータが揃うまで待ちます。
2万台作って現場に入ったのは1割という調査で、現場に入った工程に共通していたのは、環境の変化を限定できるように工程を先に固定していたことでした。任せる作業を広く取った提案より、最初の品目を狭く決めた提案の方が、動く可能性が高い。
研究開始の発表です
数字の話をしておきます。この発表には成果の数字がありません。成功率も、処理時間も、人の工数がどれだけ減るかも、まだ出ていません。研究の開始と計画の中身が公開された段階です。
計画が採択されたGENIACの同じ枠には13件のテーマがあり、PFNとPFRの屋内ロボットの環境理解もその一つです。あちらは導入時の設定、こちらは作業そのもの、と対象が違います。国の補助で研究が始まった段階の話を、いま買える製品の話として読まないことです。
背景の数字として、メルカリは越境取引の流通取引総額が過去4年で19倍の約1,100億円規模に成長したと解説記事に書いています。検品の拠点がこの伸びを支えていて、自動化の動機はここにあります。
VLAを使うロボットの提案を受けたら確かめる5項目
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力加減が要る工程の有無。柔らかい物、ボタン、ファスナー、押し込みが含まれるか。含まれるなら、力覚・触覚センサと、そのデータの学習計画があるか
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カメラの位置。固定できるか。動かしたときに再学習が要るのか、視点の変換で済むのか。現場でカメラをずらす人がいる前提で聞く
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デモの集め方。遠隔操作か、人の作業の一人称記録か。何回分で、誰の工数として見積もられているか
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最初の品目。ばらつきの少ない品目から始める計画になっているか。「全品目に対応」と書いてあれば、最初の1品目を聞く
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成果の数字の段階。研究計画か、実証値か、本番の実績か。研究段階の技術を、いま買える製品の性能として見積もらない
ロボットベンダーやSIerとの技術打ち合わせと、自動化投資の稟議に、そのまま確認項目として使えます
数字の出どころと限界
この記事の内容は、メルカリが2026年9月9日に公開した採択の発表と、研究開発組織R4Dが同日に公開した解説記事を、2026年9月15日に確認したものに基づきます。靴の検品の8手順、現在のVLAの3つの問題、3つの技術的アプローチ、靴とトレーディングカードから始めて柔軟物へ拡大する順序、越境取引の流通取引総額が4年で19倍の約1,100億円規模であることは、解説記事の記載です。GENIACの採択枠に13件のテーマがあることは、NEDOの実施予定先一覧の記載です。
成功率、処理時間、人の工数の削減幅、実証の開始時期と期間、使う機体の仕様は公開されていません。3つの技術的アプローチがどの程度うまくいくかは、研究の結果として今後出るものです。本記事の確認項目は、解説記事の記述から発注側の論点として整理したもので、メルカリが示した手順ではありません。
動画でロボットに作業を教える方式は動画プロンプトの回に、暗黙知を先に片づけようとすると止まる話は暗黙知の回に書いています。ロボットと既存の業務システムをつなぐ部分のご相談は、お問い合わせからお送りください。
