目次
  1. 技術動向レポートを渡されて判断を求められている方へ
  2. 挙がっている壁は3つです
  3. この調査は出願件数を数えていません
  4. 借りるのは枠組みで 数字は自分で取る
  5. 暗黙知を先に片づけようとすると止まります
  6. 本体ではなく手前と後ろに投資先があります

技術動向レポートを渡されて判断を求められている方へ

「製造業のAI化の壁は暗黙知にある」という趣旨のレポートを受け取り、自社の工程に当てはめるよう言われた方に向けて書いています。

レポートの結論が正しいかを論じる記事ではありません。この種の資料から何を借りて、何を自分で確かめるかの話です。

挙がっている壁は3つです

リーガルテック株式会社が、特許調査プラットフォーム「MyTokkyo.Ai」を使ってロボット・FA産業のAI実装の技術課題を整理した結果を公開しています(技術動向レポート 2026年8月28日)。対象は日本国内の公開特許・登録特許、期間は2021年から2025年です。

抽出された課題は3つでした。

課題 中身
現場データの不足・不統一 設備メーカーごとにデータ形式と通信仕様が違い、工場全体を統合するコストが大きい
熟練者の暗黙知のデータ化 手の動き、力加減、作業音、加工状態の見極めが言語化されていない
AI判断の説明可能性・信頼性 判定結果だけでは、品質保証や安全管理の担当が検証できない

3つ目が実務では一番重い、と私たちは考えています。1つ目と2つ目は「まだやっていない作業」ですが、3つ目は入れた後に運用が止まる理由になるからです。

この調査は出願件数を数えていません

同じレポートの末尾に、こう書かれています。「本レポートは、特許データファイルに基づく定量分析ではない」。出願動向についても「増加する傾向が示唆された」「安定した出願が続いている可能性がある」という書き方で統一されています。

つまり、課題の分類は公開情報と業界知識からの読み筋であって、件数の集計結果ではありません

レポートが自分でそう書いている以上、これは瑕疵ではありません。受け取る側が「特許動向」という言葉から件数を想像してしまうと、そこだけがずれます。

借りるのは枠組みで 数字は自分で取る

3つの分類は、そのまま自社の点検項目になります。ここは借りて構いません。件数や増加傾向を稟議の根拠にしたいなら、そこは別に取る必要があります。

どこまで借りて、どこから自分で取るか 借りられる 課題の3分類 工程の点検項目 技術領域の名前 自分で取る 出願件数と増加率 特定企業の権利状況 自社工程での再現性 レポート本文に「個別の特許番号、出願件数、権利状況については、特許データベースでの追加確認が必要」と書かれている
枠組みと数字を一緒に借りると、根拠のない断定が資料に残ります。線を引く位置は、レポート自身が留意事項として書いています。

3つの壁を自社の工程に当てる質問

  • 設備の記録は何種類のフォーマットで出ていますか。台数ではなく形式の数を数えます

  • 止める判断を誰がしていますか。その人が何を見て決めているかを、言葉にできますか

  • AIが不良と判定したとき、誰が最終確認しますか。確認に使える情報は画面に出ますか

  • その3つのうち、来期に着手するのはどれですか。3つ同時は動きません

    ロボット・自動化の投資検討で、社内の現状把握シートにそのまま転記して使えます

暗黙知を先に片づけようとすると止まります

3つのうち、暗黙知のデータ化は最も時間がかかります。熟練者の動作を記録し、学習させ、実機で再現するまでの距離が長いからです。

先にデータ形式の統一へ手をつけたほうが、投資は回収しやすくなります。記録が揃っていない状態では、暗黙知を集める土台そのものがないためです。

順序を逆にした現場は、自動化の後に保全の負荷が増える構図に入りやすくなります。設備は増え、記録は増え、読む人が決まっていない状態です。

現場メモ

私たちがこの種のレポートを相談の場で見せられたとき、最初に見るのは調査方法の注記です。本文より先に末尾を読みます。

理由は、資料の質を疑うためではありません。その資料を稟議のどこに置けるかが、方法の書き方で決まるからです。定性分析だと書いてある資料は、課題設定の根拠にはなりますが、投資額の根拠にはなりません。

見せられた資料をそのまま稟議へ添付して、後から「この件数の出典は」と聞かれる場面を何度か見ています。聞かれてから調べ直すと、資料の信頼ごと落ちます。

本体ではなく手前と後ろに投資先があります

3つの課題は、どれもロボット本体の性能の話ではありません。データ形式、記録の意味づけ、判定根拠の提示。いずれも設備の手前と後ろにあるシステム側の課題です。

同じ時期に、この手前と後ろを商品として売る動きが始まっています。ロボットではなく判断が売られ始めた構図は、別の記事で書きました。

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