目次
技術動向レポートを渡されて判断を求められている方へ
「製造業のAI化の壁は暗黙知にある」という趣旨のレポートを受け取り、自社の工程に当てはめるよう言われた方に向けて書いています。
レポートの結論が正しいかを論じる記事ではありません。この種の資料から何を借りて、何を自分で確かめるかの話です。
挙がっている壁は3つです
リーガルテック株式会社が、特許調査プラットフォーム「MyTokkyo.Ai」を使ってロボット・FA産業のAI実装の技術課題を整理した結果を公開しています(技術動向レポート 2026年8月28日)。対象は日本国内の公開特許・登録特許、期間は2021年から2025年です。
抽出された課題は3つでした。
| 課題 | 中身 |
|---|---|
| 現場データの不足・不統一 | 設備メーカーごとにデータ形式と通信仕様が違い、工場全体を統合するコストが大きい |
| 熟練者の暗黙知のデータ化 | 手の動き、力加減、作業音、加工状態の見極めが言語化されていない |
| AI判断の説明可能性・信頼性 | 判定結果だけでは、品質保証や安全管理の担当が検証できない |
3つ目が実務では一番重い、と私たちは考えています。1つ目と2つ目は「まだやっていない作業」ですが、3つ目は入れた後に運用が止まる理由になるからです。
この調査は出願件数を数えていません
同じレポートの末尾に、こう書かれています。「本レポートは、特許データファイルに基づく定量分析ではない」。出願動向についても「増加する傾向が示唆された」「安定した出願が続いている可能性がある」という書き方で統一されています。
つまり、課題の分類は公開情報と業界知識からの読み筋であって、件数の集計結果ではありません。
レポートが自分でそう書いている以上、これは瑕疵ではありません。受け取る側が「特許動向」という言葉から件数を想像してしまうと、そこだけがずれます。
借りるのは枠組みで 数字は自分で取る
3つの分類は、そのまま自社の点検項目になります。ここは借りて構いません。件数や増加傾向を稟議の根拠にしたいなら、そこは別に取る必要があります。
3つの壁を自社の工程に当てる質問
-
設備の記録は何種類のフォーマットで出ていますか。台数ではなく形式の数を数えます
-
止める判断を誰がしていますか。その人が何を見て決めているかを、言葉にできますか
-
AIが不良と判定したとき、誰が最終確認しますか。確認に使える情報は画面に出ますか
-
その3つのうち、来期に着手するのはどれですか。3つ同時は動きません
ロボット・自動化の投資検討で、社内の現状把握シートにそのまま転記して使えます
暗黙知を先に片づけようとすると止まります
3つのうち、暗黙知のデータ化は最も時間がかかります。熟練者の動作を記録し、学習させ、実機で再現するまでの距離が長いからです。
先にデータ形式の統一へ手をつけたほうが、投資は回収しやすくなります。記録が揃っていない状態では、暗黙知を集める土台そのものがないためです。
順序を逆にした現場は、自動化の後に保全の負荷が増える構図に入りやすくなります。設備は増え、記録は増え、読む人が決まっていない状態です。
本体ではなく手前と後ろに投資先があります
3つの課題は、どれもロボット本体の性能の話ではありません。データ形式、記録の意味づけ、判定根拠の提示。いずれも設備の手前と後ろにあるシステム側の課題です。
同じ時期に、この手前と後ろを商品として売る動きが始まっています。ロボットではなく判断が売られ始めた構図は、別の記事で書きました。
