目次
「ヒューマノイドの基盤モデルがOSSになった」を見た方へ
ロボット導入の検討や社内の技術評価を担当していて、「中国のロボットメーカーが汎用ヒューマノイドの基盤モデルをオープンソースで公開した」という投稿や記事を目にした段階の方に向けて書いています。
発表の内容が誇張だという話ではありません。発表ページに書かれた性能と、リポジトリからいま落とせるものと、それを事業で使えるかは、3つの別の欄で確認するという話です。今回の発表は、その3つがきれいに分かれている例です。
何が発表されたのか
ロボット基盤モデルとは、カメラ画像と言語の指示を入力にして、ロボットの関節や手先の動作を出力する、複数の作業に共通して使える学習済みモデルです。作業ごとにプログラムを書く代わりに、実機の動作データで学習させたモデルに指示を与えて動かします。
Unitree Roboticsは2026年9月11日、汎用ヒューマノイド基盤モデル「UnifoLM-WLA-1.0」のプロジェクトページとGitHubリポジトリを公開しました。発表ページの数字は次のとおりです。
| 項目 | 公表値 |
|---|---|
| パラメータ数 | 6B |
| 学習データ | 約2,500時間の実機データ |
| 対応タスク | 単一モデルで64タスク(卓上作業と全身作業) |
| 対応する手先 | 平行グリッパーと2種類の多指ハンド |
| 認識部分の学習 | 500万サンプル超、Qwen3-VL-4Bを土台 |
| ベンチマーク | 16の認識・理解ベンチマーク中7つでOSS首位 |
| 実機 | Unitree G1 |
構成は2段です。画像と言語から空間を理解し、次にどこが動くかを予測する認識・推論モデル(ER)と、その上に載って動作を生成する本体(WLA)です。
公開計画の欄に何が書いてあるか
リポジトリのREADMEには「Open-Source Plan」という欄があり、チェックボックスで公開状況が示されています。9月11日時点の状態です。
| 項目 | 状態 |
|---|---|
| UnifoLM-ER-1(認識・推論) | 公開済み |
| UnifoLM-ER-Flow(認識・推論) | 公開済み |
| UnifoLM-WLA-1.0(本体) | 未公開 |
| 学習コード(Post-Train Code) | 未公開 |
| UniBot-V1 Challenge Dataset | 公開済み |
| Unitree-WBT-Dataset | 未公開 |
| Unitree-Manipulation-Dataset | 未公開 |
発表ページの6Bと64タスクは本体の数字で、公開済みなのは4Bの認識・推論モデル2つです。Hugging Faceのモデルカードでは、UnifoLM-ER-1は4Bパラメータ、BF16と表示されています。64タスクを動かす部分と、それを自社のデータで追加学習するコードは、まだ計画の欄にあります。
「OSS公開」という見出しは間違いではありません。公開されたものはあります。ただし見出しが指しているものと、リンク先にあるものが同じとは限りません。チェックボックスの欄を見れば、10秒で分かります。
ライセンスは非商用です
リポジトリのLICENSEは、Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 Internationalです。略してCC BY-NC-SA 4.0。
3つの条件が付きます
- 表示(BY)。著作者の表示と、ライセンスへの言及を残す
- 非商用(NC)。商業的な利益や金銭的な対価を主目的とする利用は、このライセンスの許諾範囲に含まれない
- 継承(SA)。改変して配布する場合は、同じライセンスで配布する
社内で技術評価に使う、大学で研究に使う、という範囲は収まります。自社の製品やサービスに組み込んで対価を得る用途は、別途の許諾が要ります。ライセンス本文にも、非商用以外の利用については権利者が使用料を請求する権利を留保すると書かれています。
同じ「オープン」でも条件は逆です
LTX-2.5の世界モデルを扱ったときは、年間経常収益1,000万ドル未満の組織は商用利用が無料でした。同じ「オープン」という言葉で紹介されても、条件は正反対です。重みの配布ページ側のライセンス表記がリポジトリと同じかどうかは、私たちが確認した時点では明記が見当たりませんでした。使う前に確認が要る項目です。
64タスクの中身
発表ページには64タスクの名前が並んでいます。ゴミを出す、洗濯物を洗濯機に入れる、靴を揃える、ベッドを整える、タオルを畳む、皿をしまう。大半は家庭内の作業です。コンベアから物を取る作業が3件、部品や工具箱を片付ける作業がいくつかあります。
これはモデルの欠点ではなく、学習データの出どころの反映です。約2,500時間の実機データはUnitreeの公開データセットと、屋外や生活空間で集めた第三者のデータセットを含むと書かれています。自社の工場のラインや倉庫の棚は、そのデータに入っていません。
ロボット基盤モデルの汎化性能はデータの量と多様性で決まるという話と、国内でGENIAC事業として公開された約5,000時間のデータセットの話は、ここにつながります。64タスクを一つのモデルでこなすことと、65個目の自社の作業ができることは別です。65個目には自社のデータと、それを学習させるコードが要ります。そのコードが今回、未公開の欄にあります。
「16中7」の数え方
認識・推論モデルのベンチマーク表は、発表ページとモデルカードの両方に載っています。16のベンチマークのうち7つでオープンソースモデルの首位、全体では有償の非公開モデルに匹敵、という説明です。
表を読むと、首位でない9つの中には差の大きいものもあります。空間の動画理解を測るVSI-Benchでは、このモデルが54.2に対し、別のオープンソースモデルが74.5です。実世界の質問応答を測るERQAでは50.0に対し、非公開モデルの最高値は77.7です。
表の注記に出どころが3種類あります
比較対象の多くの数字は各モデルの公式技術レポートや論文からの転記で、非公開モデルの数字は公式APIで自社測定、BLINKという項目は一部のサブタスクだけの平均で自社測定、と3種類の出どころが1つの表に混ざっています。測定条件が揃っていない表の順位は、参考値です。VLAの評価で組み合わせの汎化を測った回でも書いたとおり、ロボットのベンチマークは何を測ったかを先に見ます。
それでも見る価値はあります
ここまで読むと否定的に見えますが、発表の価値は別のところにあります。
ハードウェアの会社が、モデルとデータの公開に踏み出しました。Unitreeは四足歩行ロボットの可搬性能やヒューマノイドの修理対応で扱ったとおり、機体を売る会社です。その会社が認識モデルの重みを配り、公開計画を欄にして示した。競争の軸が機体からモデルとデータへ移る流れは、FRONTiaの回で書いた「共有財が増えるほど差は現場のデータに残る」と同じ方向です。
公開済みの認識・推論モデルは、非商用の範囲で自社の現場の画像を見せて、空間の読み取りがどこまで効くかを試すことができます。本体が出たときに自社の作業を学習させる準備として、どのデータが要るかを先に考える材料にはなります。
基盤モデルの「OSS公開」を受け取ったら開く5項目
-
公開計画の欄。READMEのチェックボックスで、発表の見出しが指すモデル本体と学習コードが公開済みか未公開かを見る。未公開なら、いま評価できるのは部品
-
LICENSEファイル。非商用(NC)か、継承(SA)か、収益規模による条件か。社内評価と事業利用で許される範囲が変わる。重みの配布ページ側の表記も別に確認する
-
タスク一覧の中身。発表のタスク数ではなく、その名前を読む。家庭内か、卓上か、自社の作業に近いものが何件あるか
-
ベンチマーク表の注記。比較対象の数字が転記か自社測定か、サブタスクの一部だけかを見る。出どころが混ざった表の順位は参考値
-
学習データの出どころ。実機データの時間数より、どの環境で集めたかを見る。自社の現場に近いデータが入っていなければ、追加学習の前提になる
社内の技術評価レポートと、ロボットベンダーが「オープンな基盤モデルを使います」と言ったときの確認に、そのまま使えます
数字の出どころと限界
この記事の内容は、Unitree Roboticsが公開したUnifoLM-WLA-1.0のプロジェクトページ、GitHubリポジトリのREADMEとLICENSE、Hugging Faceのモデルカードを2026年9月12日に確認したものに基づきます。6B、約2,500時間、64タスク、500万サンプル超、16中7のベンチマーク首位はプロジェクトページの記載です。公開計画のチェック状況と重みの公開日はREADMEの記載で、ライセンスはLICENSEファイルの記載です。4BとBF16はモデルカードの表示です。
公開計画は今後更新される可能性があり、この記事は9月11日時点の状態を記録したものです。本体の公開時期、学習コードの公開時期、重みの配布ページ側のライセンス表記、64タスクの成功率や実機での失敗率は公開されていません。ベンチマークの数字はUnitreeの自社報告で、第三者の再測定は付いていません。
ロボット基盤モデルの位置づけはVLAの実演データの費用の回に、量産と現場稼働の差は2万台と1割の回に書いています。
