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「量産が始まった」というニュースを見た方へ
ヒューマノイドの量産開始、上場、大型受注といった見出しを目にして、自社の工場や倉庫に入れられる段階なのかを考え始めた方に向けて書いています。
ヒューマノイドを否定する記事ではありません。作られた台数と、業務で使われている台数は別の数字だという話です。2つの数字は同じ調査に載っていて、10倍離れています。
2万台のうち、現場に入ったのは1割です
市場調査会社Interact Analysisが2026年6月に公表した報告「Humanoid Robots 2026」の数字が、2026年9月2日のTech Timesの記事で整理されました(China Builds Humanoid Robots Faster Than Any Factory Can Actually Use Them、日本語版は財経新聞)。
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 2024年の世界生産台数 | 2,000台未満 |
| 2025年の世界生産台数 | 2万台超(約10倍) |
| うち中国メーカーの割合 | 90%以上 |
| 明確な業務用途の現場に投入された割合 | 約10% |
| 産業用途の台数(前年) | 100台未満 |
生産された機体の大半は、研究開発、ロボット学習用のデータ収集、教育、エンターテインメントに使われました。業務用途も前年の100台未満からは大きく増えていますが、2025年末の時点では短期間の実証と、小規模な管理された環境での運用が中心です。
同社は、本格的な商業利用の壁を3つ挙げています。自律動作、投資回収に足る作業効率と成功率、複数の作業への汎化。現在のシステムは、この3つを同時に満たすことが難しいとしています。
作っている側の売上でも、産業は1割です
もうひとつ、作る側の数字があります。Unitreeが2026年8月の上場に向けて開示した資料では、2025年1〜9月のヒューマノイド関連売上のうち研究機関と教育向けが70%超で、産業用途は10%未満でした。世界の出荷の大半を占める会社の売上でも、産業の比率は調査の1割と同じ水準です。
大型受注の側も見ておきます。UBTECHのWalker S2は自動車や物流の顧客から8億元を超える受注を積み上げましたが、同社は2026年1月に、人の作業者と比べて最大でも半分の効率だと開示しています。受注額が大きいことと、人と同じ速さで働けることは別です。
AgiBotは2026年6月に累計1万5,000台の生産を発表し、幹部は「2026年は大規模展開の始まりの年だ」と述べています。始まり、という言葉が付いています。
1割に入っている工程の共通点
現場に入った側の工程には共通点があります。作業位置と手順が決まっている固定工程、管理された倉庫、人が入りにくい危険区域や狭い場所の点検。環境の変化を限定できる工程です。
理由は、Tech Timesの記事が挙げた3つの制約から読めます。
- バッテリーで連続稼働できるのは1〜4時間で、24時間運用には交換の仕組みが要る
- 学習時と違う設備や物体に出会うと成功率が下がり、棚の設計が変わるだけで追加の学習データが要る
- 人と並んで働くヒューマノイドの安全規格は、ISOとASTMとも2027年まで固まらない
言い換えると、「どんな作業でもできる」ことを前提にした導入は、まだ1割の側に入っていません。入っているのは、工程を先に固定した導入です。
日本の医薬品工場に入った4台
1割の側の工程が、日本にもあります。医薬品の開発製造受託を手がける武州製薬が、埼玉県の美里工場にヒト型ロボット4台を導入した事例が、2026年9月3日にロボットダイジェストで報じられました(医薬品の包装を人手からヒューマノイドに)。
導入した理由が、この記事の主題と重なります。医薬品は品種によって生産量が少なく、専用機を組む投資が合わない工程が残る。箱詰めやテープ貼りが人手に頼らざるを得なかった、という背景です。
4台はカワダロボティクスの「NEXTAGE Fillie」で、上半身だけがヒト型のセミヒューマノイドです。それぞれ別の生産ラインに置かれています。
| 台 | 担当する作業 |
|---|---|
| 1台目 | 医薬品の箱詰め |
| 2台目 | 箱へのテープ貼り |
| 3台目 | 自動注射器の組み立て |
| 4台目 | 箱の供給装置とコンベヤーに組み合わせた複合作業(作業者と分担) |
どの1台も単体では動いていません。搬送装置やテープ貼り装置と連携し、4台目は作業者と工程を分け合っています。ロボットが箱を組み立ててコンベヤーに流し、作業者がボトルを入れて戻し、ロボットがテープを貼って次工程へ送る。ロボットで代替できる範囲を先に見極めて、残りを人が持つ形です。
同社のDX戦略部の責任者は、工場のレイアウト変更が最小限で、人手作業をほぼそのまま置き換えられたことと、作業者のミスを防げることを利点に挙げています。
前の節の3条件に当てはめると、固定工程で、周辺装置と分担があり、環境の変化が限定されています。1割の側の工程は、こういう形をしています。
量産や受注のニュースを読み替える4つの質問
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出荷台数のうち、いま業務で稼働している台数は何台ですか。研究・教育・展示向けを除いた数を聞きます
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1台あたりの継続稼働時間と作業の成功率はいくつですか。人と比べた効率を、提案書に数字で書いてもらいます
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人が介入した回数と、再学習が必要になった頻度はどれくらいですか。設備や部品が変わったときに何が起きたかを聞きます
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導入した企業から追加発注は出ていますか。初回導入の件数ではなく、2回目以降の数を聞きます
ロボットメーカーやSIerの提案を受ける面談で、そのまま確認項目として使えます
政府が1万台を現場に置く意味
中国の工業情報化部と国務院国有資産監督管理委員会は2026年6月、製造・サービス・特殊作業の現場でヒューマノイドを訓練する特別行動を始めました。年末までに100以上の応用シナリオを選び、1万台規模の展開能力を整えるという目標です。地方政府と国有企業には実施計画の提出が求められ、進捗の報告が11月に集まります。
Tech Timesはこれを、市場ではなく行政の力で1割を押し上げる試みと読んでいます。ヒューマノイドの学習には、実際の現場で関節がどう動き、把持が成功したか失敗したかという記録が要ります。行政が現場を用意すれば、その記録が集まる。集まった記録が次のモデルを作る、という循環を政策で先に回す、という見立てです。
11月の報告で、置かれた台数と、継続して働いている台数の差が最初に見えることになります。
数字の出どころと限界
この記事の台数と割合は、市場調査会社Interact Analysisの報告をTech Timesが引用したものです。調査会社の推計であり、各社の開示数字を足し上げた実数ではありません。2025年末時点の状況で、2026年上半期にはAgiBotだけで約8,400台を出荷したという別の推計もあり、生産の側は今も伸びています。
伸びているのは生産の側です。業務に入った台数は、11月の中国の報告と、各社の次の開示を待つ必要があります。
Interact Analysisは、商業化の転換点を2032年ごろ、2035年の年間出荷を70万台超と予測しています。前提は自律性と信頼性の向上に加えて、安全規格の整備です。
台数ではなく現場の稼働時間を指標に置く判断は、国産ヒューマノイドの設計判断でも見ました。作業の長さで成功率が半分になる話は68万パラメータで86.9%に、工程の95%まで進んで止まる話は工程の95%まで進んでもにあります。導入支援が商品になり始めた背景は売られ始めたのはで整理しました。米国での規制は米国のロボット規制はを参照してください。
