目次
  1. 四足ロボットの提案を受け始めた方へ
  2. 何が発表されたのか
  3. 産業グレードの2機種と同じ軸で並べる
  4. 「歩けるだけでは産業になりません」の続き
  5. 国内で直せる、の中身
  6. 世界モデルという言葉の位置
  7. 提案を受けたときに確認すること
  8. 数字の出どころと限界

四足ロボットの提案を受け始めた方へ

工場や倉庫、屋外設備の巡回点検や搬送に四足歩行ロボットを検討していて、メーカーやSIerから機種の提案を受けている、または受けそうな設備部門・生産技術・DX推進の方に向けて書いています。

国産機が出たことを喜ぶ記事でも、海外機と優劣をつける記事でもありません。四足ロボットは移動する台で、価値はその上に載るものと、止まったときの直し方で決まるという話です。発表の数字は、その確認に使います。

何が発表されたのか

四足歩行ロボットとは、4本の脚で段差や不整地を移動し、背中にセンサーや機材を載せて現場を巡る移動基盤です。車輪型が入れない階段や溝を越えられる代わりに、何を載せて何をさせるかは別に決める必要があります。

東京大学発の株式会社Highlandersは2026年9月7日、国産の四足歩行ロボット「HLQ EDGE」を発表しました(プレスリリース)。機体設計、歩行AI、ロボットアームの開発と量産を国内で行い、導入先ごとの装備変更やソフトウェア更新、保守の窓口も国内に置くとしています。開発拠点は埼玉県所沢市です。

公開された値を並べます。

項目 公表値
最大可搬重量 60kg
最大関節トルク 330N·m
連続駆動 3時間(48Vバッテリー)
全身自由度 12DoF(背面アタッチメントを除く)
歩行姿勢の全高 250〜500mm
視覚 デプスカメラ2台とHand Vision
内蔵コンピュータ NVIDIA Jetson Orin NX
拡張 背面マウントレール、6ch CAN、USB、有線LAN
無線 Wi-Fi 6、5G

公開されていない値もあります。機体の重量、価格、防塵防水の等級、動作温度です。表にない項目は、提案を受けたときに聞く項目になります

産業グレードの2機種と同じ軸で並べる

比較の相手は、産業用途で名前が挙がる2機種にしました。Unitree B2は同じ大型の産業グレード機、Boston Dynamics Spotは点検用途で普及している機体です。各行の太字が比較の軸です。

HLQ EDGE Unitree B2 Spot
可搬:最大60kg 歩行時40kg超、静止時120kg以上 14kg
稼働:3時間 無負荷で5時間超、20kg積載で4時間超 約90分、給電しながら運ぶと約60分
重量:未公開 約60kg 33.8kg
トルク:330N·m 約360N·m 未確認
計算機:Jetson Orin NX Core i5とi7が標準、Orin NXは選択 未確認
保守:国内に窓口を置くと明記 未確認 未確認

出典はメーカーの公式ページです(Unitree B2Spot Specifications)。樋口製作所が約250万円で本社工場に入れたUnitree Go2は別の級の機体なので、この表には入れず、公表値だけ添えます(Unitree Go2)。

Go2の項目 公表値
機体重量 約15kg
関節トルク 約45N·m
稼働 約2〜4時間
価格 1,600ドルから

数字の条件が揃っていません

可搬と稼働時間の欄を、添えられている条件だけで読み直します。

数字 添えられている条件
HLQ EDGE 可搬60kg、3時間 歩行時か静止時か、給電中かの記載なし
B2 可搬40kg超 歩行時と静止時を分けて公表
B2 稼働4時間超 20kg積載時と無負荷時を分けて公表
Spot 稼働約90分 載せた機材に給電すると約60分に落ちると明記

条件が書かれている数字ほど、現場での再現性が読めます。条件が書かれていない数字は、聞けば分かることが多いので、提案の場で確認します。

Jetson Orin NXという計算基盤の名前は、ヒューマノイド各社の中身が同じ会社に寄っている話と同じ構図です。国産機でも、機体内で認識と判断を回す部品は共通の供給元に依っています。悪いことではなく、載せる機材の側から見れば、開発環境が揃っているという意味になります。

「歩けるだけでは産業になりません」の続き

Highlandersの代表はリリースの中で、四足歩行ロボットは「歩けるだけでは産業になりません」と書いています。機材を運び、作業機器を載せ、荒れた地形を越え、止まったときに国内で直せて、初めて現場の道具になる、という趣旨です。

この文の主語を発注側に置き換えると、仕事が見えます。載せる機材と、その機材が取った値の行き先を決めるのは、機体メーカーではなく発注側です。樋口製作所の実証では、ロボットが歩いて読んでいたのはプレス機のメーターで、読んだ値をどこへ流し、誰が良否を判定するかは機体の外にありました。エッジで推論を回す案件でも、詰まっていたのは推論の前のデータの受け渡しでした。四足ロボットでも同じで、レールの上に載るセンサーの値をどこへ渡すかが、導入後の価値を決めます。

レールの左右で、持ち主が分かれる 機体メーカーが持つもの 歩行AIと機体、アーム 部品在庫と修理窓口 ソフトウェア更新 マウント レール CAN・USB・有線LAN 発注側が決めるもの 載せるセンサーと工具 値の行き先と判定基準 止まったときの代替手順 機体の見積もりに入るのは左側だけです。右側は発注側の仕事として別に決めます
レールの接続仕様が開示されるかで、右側を自社や別の会社で作れるかが決まります。

国内で直せる、の中身

リリースは、止まったときに国内で直せることを繰り返し書いています。保守の窓口が国内にあることは、輸入機と比べて分かりやすい差です。ただし、窓口があることと、止まっている時間が短いことは別です。

ロボットは動き続けるが、先に持たなくなるのは保全だと以前書きました。四足ロボットで確認するのは、次の中身です。

  • 交換部品の在庫と到着日数。脚のアクチュエータとバッテリーは消耗品です。国内在庫か、都度取り寄せかで、止まる日数が変わります
  • ソフトウェア更新の経路。歩行AIの更新が現場のネットワークを通るのか、機体を送るのか。5G対応は遠隔運用のためで、更新の手段とは別に確認します
  • 代替機の有無。修理中に巡回が止まってよいかは現場側の判断です。止められないなら、代替機の条件を契約に入れます
  • レール規格と接続仕様の公開範囲。載せる機材を自社や別の会社が作れるかは、マウントレールの寸法と、CAN・USB・有線LANの仕様が開示されるかで決まります

売られ始めたのはロボットではなく判断だという話を以前書きました。保守の中身も同じで、機体の値段ではなく、止まった日に誰が何をするかが売り物になります。

世界モデルという言葉の位置

リリースでは、歩行制御に「ワールドモデルを活用した独自AI」を使い、機体の状態と地形から次に起こる変化を予測して、脚の接地位置と姿勢を連続的に調整すると説明しています。台と台の間に空隙がある溝状の地形を跳び越える動作の実機映像が公開されています。

発注側にとって、この言葉は歩行性能として現れる技術要素で、契約の対象ではありません。世界モデルという1つの言葉は6種類の別物を指しています。ここでは脚の制御に使う予測モデルの意味で、ロボットが作業の意味を理解するという意味ではありません。動画で確かめるのは、自社の現場に近い地形で歩いているかの一点です

提案を受けたときに確認すること

四足ロボットの提案で確認する5項目

  • 可搬重量の条件。歩行時か静止時か、どの姿勢高で測った値か

  • 連続稼働の条件。載せた機材に給電した状態で測った時間か

  • 未公開の値。機体重量、価格、防塵防水の等級、動作温度。カタログに無い項目は、聞けば出ることが多いです

  • 保守の中身。交換部品の国内在庫、ソフトウェア更新の経路、修理中の代替機、修理拠点の場所

  • 載せる機材と値の行き先。センサーの値をどこへ渡し、誰が良否を判定するか。ここは機体の見積もりに入っていません

    メーカーやSIerとの打ち合わせで、機種比較表の右側に列を足す形でそのまま使えます

現場メモ

私たちはロボット本体を作りません。担当するのは、ロボットが取った値を受け取って業務システムへ流す側と、AIをどこに使うかの判断です。その立場で四足ロボットの発表を読むと、可搬重量の欄より先に、拡張インターフェースの欄を見ます。CAN、USB、有線LANが並んでいるかで、載せる機材を自分たちで選べるか、メーカー純正だけになるかが決まるからです。

価格が出ていない機体を比較表に載せるかは迷いました。載せたのは、価格が出ていないこと自体が確認項目だからです。約250万円の機体と国産の産業グレード機は、機体の値段より先に、止まったときの日数と、載せる機材の総額で差がつきます。

数字の出どころと限界

この記事の数字は、Highlandersが2026年9月7日に公開したプレスリリースと、ロボスタの同日の記事、UnitreeとBoston Dynamicsの公式ページに基づきます。HLQ EDGEの価格、機体重量、防塵防水の等級、動作温度、Hand Visionの中身は公開されていません。量産と実証は今後進めると書かれており、導入事例はまだ公開されていません。

比較表の「未確認」は、この記事の執筆時点で公式ページから読み取れなかった項目で、公開されていないという意味ではありません。可搬重量と稼働時間は、各社が異なる条件で測った公表値をそのまま並べています。

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