「ロボットの学習データはどう集めるのか」を考えている方へ

現場の自動化を検討していて、ロボットに何を覚えさせるためのデータをどう用意するのか分からない、という段階の方に向けて書いています。

先に結論を書きます。データは人間の作業動画で足りるという方向に、まとまった証拠が出ました。ただし自社の工程がその恩恵を受けるかどうかは、公表された平均の数字からは読めません。

何が示されたのか

Dyna Roboticsが2026年8月、「Dyna-2」の結果を公開しました。100万時間を超える人間の作業動画で事前学習した world-action model です(Dyna Robotics「Dyna-2: A 1-Million-Hour Scaling Law for World-Action Models」)。

実験の設計が明快です。学習に使う人間の動画を1,000時間から100万時間まで1000倍に増やし、それ以外の条件を固定して性能の変化を測っています。

学習に使った人間の動画 14タスクの平均正規化スコア
1,000時間 20%
1万時間 28%
10万時間 45%
100万時間 53%

評価は半人型ロボットの初期試作機で行われ、評価者は開発に関わっていない人が担当しています。検証用のデータは学習に使ったどのデータとも重ならない固定のものを使う、と明記されています。実験としての作りは丁寧です。

人間の動画で学んだことがロボットへ移ります

この報告が「初めて」と言っているのは、人間からロボットへの転移にもスケーリング則が成り立つという点です。人間の動画を増やすと、学習中に一度も見ていないロボットのデータでの性能も上がる、という関係が確認されました。

意味は小さくありません。ロボットの学習データは実機を動かして集めるのが常識で、だから台数と時間が上限を決めていました。人間の作業動画で代わりになるなら、集められる量の桁が変わります。データが伸びを決めているという話はロボット基盤モデルの伸びを決めているのはでも扱いました。

ただし個別のタスクでは下がっています

ここが本題です。

平均は20%から53%へ伸びました。タスクごとに見ると、こうなっています。

タスク 1,000時間 1万時間 10万時間 100万時間
引き出しにペンを入れる 10% 80% 80% 90%
ボトルのキャップを外す 10% 10% 40% 50%
ロープを結ぶ 0% 40% 90% 40%
ハンガーにズボンを掛ける 10% 0% 20% 50%

ロープを結ぶ作業は、10万時間で90%まで行ったのに、100万時間では40%へ落ちています。ハンガー掛けは1万時間の時点で0%です。

データを増やせば全部が良くなる、という話ではありません。平均が上がっているのは事実で、それはそれで重要な結果です。ですが発注側が見るのは平均ではなく、自社の工程に相当するタスクの列です。

53%は「100件中53件成功」ではありません

この53%は、各タスクで達成しうる上限に対して平均で半分に届いた、という意味です。

まだ半分です。

提案でベンチマークを見せられたら

ロボットの性能数値を受け取ったときの5点

  • 自社工程に相当するタスク: 平均ではなく、その作業単体の数字はいくつか
  • 単調に伸びているか: データを増やして下がった区間がないか。あるなら学習の仕方が合っていない
  • 測ったのは誰か: 開発チームの自己申告か、開発に関与していない評価者か
  • 分母の定義: その%は成功率か、達成しうる上限に対する到達度か
  • 直列に繋いだときの通過率: 単体で50%の工程を10段繋ぐと、通しの成功率は0.1%です

ロボット導入の提案書に載っている数字を、この5点で読み直してください。1つ目と4つ目で話が変わることが多いはずです

工程を通したときに何が起きるかは工程の95%まで進んでもで扱いました。単体の精度が高くても、繋いだ瞬間に落ちるのは変わりません。倍率や達成率の測定範囲を確かめる話はAI開発の生産性200倍は何を測った数字かと同じ読み方です。

現場メモ

私たちはロボット本体を作りませんが、現場で撮った動画や作業ログを業務システム側へどう溜めるか、という相談は受けます。

この報告が正しければ、現場の作業動画そのものに資産価値が出ます。ただし溜めれば使えるわけではありません。撮影の画角、作業者の映り込み、取引先の情報、そして後から「どの工程のどの作業か」を引ける形になっているか。ここが崩れていると、量があっても学習には回せません。

なので相談を受けたときは、まず撮り方と保存の設計の話をします。地味ですが、後から遡って直せない部分です。

集める先が「実機」から「人の手元」へ動きます

この結果を素直に読むと、ロボットを買って動かしてデータを集める、という順序が絶対ではなくなります。人がやっている作業を記録するほうが先、という順序があり得る。

そして記録が資産になるなら、誰の現場の記録なのかが競争条件になります。汎用の公開データで足りる部分と、自社の現場でしか撮れない部分を分けて考える段階に入りました。公開されたロボットデータに何が入っているかは公開されたロボットデータの中身はで整理しています。

自社の工程が、この表のどのタスクに近いのかを見極めたい段階でしたら、お問い合わせからご相談ください。工程の分解から一緒にやります。