「どのボードを使いますか」と聞かれた方へ

工場や倉庫にロボット・検査端末を入れる計画があり、ハード構成の相談を受けている方に向けて書いています。

先に結論を書きます。チップの選定は最後です。その前に決めることがあって、そこが決まれば候補は自動的に数機種まで絞れます。

2026年7月に何が起きたか

インテルとAMDが、数日違いで同じ市場へ製品を出しました。

インテル AMD
製品 Core Ultra シリーズ3(開発コード名 Panther Lake) Ryzen AI Embedded X100
発表 ロボティクス・ワークショップ(7月23日) Advancing AI 2026(7月22〜23日)
構成 CPU・GPU・NPUを単一のSoCへ統合 Zen 5コア。CPU・GPU・NPUが最大128GBのメモリを共有
AI性能 最大180TOPS(SoC全体) NPU 最大50TOPS(TDP 55W)
ソフト OpenVINO Physical AI / Physical AI Studio Robotics Software Suite / Kria AI Robotics Developer Platform

出典はMONOist「フィジカルAIに注力するインテル、組み込み市場での約40年の実績を生かせるか」(2026年8月6日)とPC Watch「AMD、フィジカルAI用SoC「Ryzen AI Embedded X100」と開発ボード「Kria」」(2026年7月24日)です。

共通しているのは「2枚が1枚になる」ことです

インテルの説明が分かりやすい。従来はAI推論用とロボット駆動制御用で2つのコンピューティング構成が必要でしたが、これを1枚のボードへ統合したと述べています。結果として総所有コストが下がり、消費電力が下がり、ミリ秒単位の低遅延な制御ができる、と。

AMDも方向は同じで、CPU・GPU・NPUが大きなメモリを共有して端末側で推論を回す構成をとっています。

2026年に変わったのは性能の数字ではありません。構成です。基板が減れば筐体が小さくなり、電源が軽くなり、現場に置ける場所が増えます。効いてくるのはそこです。

TOPSを並べて比べてはいけません

180と50を並べると3.6倍の差に見えます。ですがインテルの180はSoC全体、AMDの50はNPU単体の数字です。測っている対象が違うので、この2つは比較になりません。

AMD自身は別の土俵で比較を出していて、インテルのCore Ultra シリーズ3に対しマルチスレッドのCPU性能で2.1倍、トークン生成のスループットで3.5倍、最初のトークンが返るまでの時間で1.4倍速いとしています。ただしこれはAMDが自社で測った数字です。

倍率を受け取ったら測定範囲を確かめる、という話はAI開発の生産性200倍は何を測った数字かで書きました。ハードの数字でも同じです。

決めるのは切る位置です

端末側で完結させる処理と、既存システムへ返す処理。この線をどこに引くかが決まれば、必要な性能は逆算できます。

逆に、線が決まらないまま「とりあえず性能の高いもの」を選ぶと、使わない演算能力のために電力と発熱と価格を現場が負担することになります。工場の盤の中では、発熱は場所と同じくらい高くつきます。

線を引く条件は4つです。

3つ目を軽く見た構成が、いちばん後で困ります。回線が切れても止められない工程は現場にたくさんあります。

外に出せないデータをどう扱うかは「社内データを外に出せない」と言う前にで整理しました。判断の順序はエッジでも変わりません。

相談を受ける前に埋める1枚

端末で完結させるか判断する5つ

  • 応答の締切: その処理は何ミリ秒以内に返らないと現場が止まるか
  • データの区分: 端末が扱う映像・音声・図面のうち、外へ出せないものはどれか
  • 回線断の挙動: 止めてよいか、機能を落として続けるか。止まったとき危険側に倒れないか
  • 更新の経路: モデルを差し替えるとき現場へ行くのか、遠隔で配れるのか
  • 記録の置き場: 判断の根拠を後から示す必要があるとき、ログはどこに何日残るか

ハード構成の相談に入る前に埋める1枚として使えます。5つが埋まれば、候補は数機種まで絞れます

導入の温度感は業種でかなり違います。倉庫では8割が動き出している一方、建設は3割にとどまるという調査もありました(倉庫は8割 建設は3割)。自社がどちらに近いかで、切る位置の選び方も変わります。

現場メモ

私たちはロボットや装置の本体を作りません。作るのは、端末が出した結果を既存の業務システムへ入れる側と、現場へ指示を返す側です。

その立場で見ていると、相談の入り口が「どのボードにしますか」になっている案件は危ない。ボードは後から替えられますが、切る位置を間違えると業務システム側の作り直しになります。端末で完結させる前提だった処理を後からクラウドへ寄せると、遅延の前提が崩れて現場の手順まで変わるからです。

なので最初の打ち合わせでは、性能の話に入る前に、切る位置の候補を2つか3つ挙げて、それぞれで業務がどう変わるかを並べます。ハードの型番が出てくるのは、そのあとです。

選択肢が増えただけで、決めることは変わっていません

2社が同じ月に製品を出し、比較記事も増えました。それ自体は良いことです。使える手段が増え、価格も動きます。

ただし増えたのは手段のほうで、決めるべきことは変わっていません。現場の端末で何を完結させ、何を後ろのシステムへ返すか。ここを先に決めれば、製品選定は消去法で終わります。

線を引くところから相談したい段階でしたら、お問い合わせからご連絡ください。業務の側から見て、どこで切ると後で困らないかを一緒に決めます。