「AIネイティブ」と書かれた提案書を受け取った方へ
基幹の業務システムを入れ替える検討に入っていて、候補ベンダーの資料に「AIネイティブ」と書いてある、という段階の方に向けて書いています。
この語は、少なくとも2つの意味で使われています。作り手側の開発が速いという意味と、利用者が使えるAI機能があるという意味です。この2つは別々の約束です。混ざったまま稟議に載せると、使えるはずだった機能が2年先だった、という形でずれます。
書き分けられている例を見ます
2026年8月13日、メドレーがクラウド電子カルテ「MALLクラウド」の開発を公表しました(メドレー「MALLクラウド」に関する発表)。厚生労働省が示す標準仕様に準拠したクラウドネイティブ電子カルテだと説明されています。
この発表の書き方が、いま扱っている論点の教材になります。
「AIネイティブ」が出てくるのは、既存のオンプレミス版から機能や導線などの基本的な仕様は踏襲しつつ、AIネイティブによってスピード感のある開発・アップデートを実現していく、という文脈です。つまりここで速くなると言っているのは、作り手の開発と更新です。
一方で、利用者が触るAI機能については別に書かれています。生成AIによる医療文書作成支援などの機能を搭載していく予定である、と。そしてリリースは2027年1月以降を目処に段階的とされています。
書き分けられています。読み違えようがない書き方です。
問題は、この書き分けが提案書では消えることです
ここが本題です。
発表資料は広報の目を通って出てきます。予定と確定を混ぜると後で問題になるので、慎重に書かれます。ところが同じ内容が営業資料や提案書に落ちてくると、「AIネイティブな電子カルテ」という一語に圧縮されます。悪意がなくても圧縮されます。
受け取った側は、AI機能が入った製品を今から入れられる、と読みます。実際には、基盤を作り直す工程が先にあり、AI機能はその上に順次載る。同じ言葉で、時間軸が2年違います。
似た構図はAI開発の生産性200倍は何を測った数字かでも扱いました。あちらは測定範囲、こちらは主語です。誰が速くなるのかを確かめないと、数字も語も読めません。
実績の数字は、どの製品のものか
もう一点あります。
この発表には、導入医療施設数が約250件、約20年の運用で利用継続率98%という数字が載っています。ただしこれは既存のオンプレミス版の実績です。注記も付いています(2026年3月時点)。
数字そのものは強い。20年動いて継続率98%というのは、業務システムとして相当な水準です。ですがそれは、これから出る後継製品がまだ持っていない実績です。
新旧が同じブランドで並ぶと、実績が自動で引き継がれたように読めます。前の製品の数字であること自体は問題ではありません。問題は、それを後継の評価に使ってしまうことです。
稟議の前に確かめる
「AIネイティブ」を見たときの5つの質問
- 誰が速くなるのか: 開発ベンダーの更新速度か、自社の業務処理か
- AI機能は搭載済みか予定か: 「していく予定」と書かれた機能の提供時期は契約書に落ちるか
- その実績値はどの製品のものか: 現行製品か、これから出る後継製品か。基準日はいつか
- 段階リリースの何期目に自社が入るか: 「段階的」の第1弾に必要な機能が含まれるか
- 踏襲される仕様の範囲: 現行の機能と導線のどこまでが引き継がれ、どこが作り直しか
ベンダー面談の場でそのまま聞けます。2つ目と4つ目の答えが曖昧なら、稟議の時期を後ろへずらす判断材料になります
既存システムをAI前提で組み直す順序そのものはSaaSをAIネイティブへ作り替えるときで整理しました。実証から本番へ渡す段の話はAIのPoCが本番に届かない理由にあります。
語ではなく時期で確かめる
「AIネイティブかどうか」を判定しようとすると水掛け論になります。定義が共有されていないからです。
代わりに時期を聞くと決着します。その機能はいつ使えるようになるのか。契約書に書けるのか。答えられない機能は、現時点では評価に入れない。それだけで、語の解釈をめぐる議論は要らなくなります。
導入の意思決定そのものが進まない状態についてはAIの導入が決まらない会社で起きていることで書きました。曖昧な語は、決められない状態を延命させる側に働きます。
候補ベンダーの提案を並べて、どこまでが確定でどこからが予定かを整理したい段階でしたら、お問い合わせからご相談ください。評価軸の作り方からご一緒します。
