社内でAIが使われ始めた、という段階の方へ

社内の何人かが生成AIを使い始めた。止める理由もないので黙認している。ただ、これを会社としてどう扱えばいいのかは決めていない。この記事は、その段階の方に向けて書いています。

総務省が2026年7月24日に公表した令和8年版情報通信白書の企業向け調査で、この状態が日本に固有のものだと分かりました。

導入率では、もう差はほとんどありません

自社の何らかの業務で生成AIを利用していると回答した日本企業は**86.4%**でした。前年度調査の55.2%から大きく伸びています(令和8年版情報通信白書 概要・2026年1〜2月調査)。

2025年度 2024年度
日本 86.4% 55.2%
米国 90.9% 90.6%
ドイツ 91.6% 90.3%
中国 98.1% 95.8%

昨年まで日本だけが半分程度でした。今年はほぼ横並びです。「日本は生成AIの導入が遅れている」という説明は、少なくとも導入率については使えなくなりました。

差が残っているのは、決め方のほうです

同じ調査で、生成AIによる業務変革への組織的な取組状況を聞いています。

「組織的な取り組みはない」と答えた割合は、次のとおりです。

割合
日本 27.0%
ドイツ 4.9%
中国 2.6%
米国 1.4%

日本の27.0%に対し、米国は1.4%です。19倍の開きがあります。導入率では5ポイント差まで詰めた一方で、この項目だけ桁が違います。

日本の内訳はこうです。全社横断で事業変革に取り組んでいるが21.5%、各部署での最適化が32.4%、個人の生産性向上に組織的に取り組んでいる(業務自体の変革には至っていない)が11.7%、そして取組なしが27.0%、わからないが7.4%。

「わからない」を足すと3割を超えます。使っているのに、会社として何をしているか答えられない状態です。

環境整備の項目でも同じ傾向が出ています。「特に実施している施策はない・把握していない」と答えた日本企業は19.9%。他の3か国はいずれも0.3〜0.7%でした。

効果を実感しやすい用途ほど、事業への影響は小さい

ここが、この白書でいちばん読む価値のある部分です。

業務類型ごとに「生成AIの活用効果を感じる割合」を聞いた結果が、日本ではこうなりました。

業務類型 効果を感じる割合
議事録・メール作成補助 72.3%
社内ヘルプデスク 42.7%
製造・生産 39.8%
研究・商品開発 39.1%
営業・販売 37.5%
マーケティング・広報 36.6%
調達 25.9%

議事録・メール作成補助が突出しています。研究・商品開発の倍近い。

素直に読めば「議事録から始めるのが正解」に見えます。ただ、活用状況の内訳を見ると別の絵になります。議事録・メール作成補助で最も多い回答は「従業員が個人作業の効率化で活用している」の35.2%でした。業務プロセスがAI中心に変更されているは11.3%にとどまります。

つまり、効果実感が最も高い用途は、個人が自分の手元で完結できて、効果が自分で分かる用途です。会議の議事録が10分で上がれば、書いた本人は確実に速くなったと感じます。

一方、研究・商品開発や製造・生産で効果を測るには、工程をまたいだ比較が要ります。効果が出ていても本人の実感には表れにくい。逆に、実感が薄いから効果がないとも言い切れません。

効果実感は、業務の重要度ではなく、効果の見えやすさに従って並びます。 社内アンケートで「どこで効果が出ていますか」と聞いて投資先を決めると、いちばん浅いところに寄ります。

白書は、比較できない数字に注記を付けています

個人の利用状況も出ています。日本で生成AIサービスを使ったことがあると答えた人は58.8%、前年度は26.7%でした。倍以上です。

ただし白書は、この数字にはっきり注記を置いています。2023年度・2024年度の調査は20歳以上が対象でしたが、2025年度は新たに15〜19歳を加えました。**同じ20歳以上で見た2025年度の利用率は52.2%**です。

58.8%と26.7%を並べて「1年で2.2倍」と書くと、調査対象の変更ぶんが混ざります。

この注記の付け方は、資料としては誠実な部類です。ベンダーの提案書で見る数字にこの種の但し書きが付いていることは、あまり多くありません。数字を受け取る側の確認点はAI開発の生産性200倍は何を測った数字かで整理しています。

27%から出るために決めること

「組織的な取り組みはない」から抜けるのに、全社DX計画は要りません。決めるべきことは、実務上は次の5つに収まります。

個人利用から組織利用へ移すときに決める5点

  • 入れてよいデータの線引き: 顧客情報、個人情報、未公開の財務情報、他社との秘密保持契約の対象。どれを入れてよく、どれが禁止か
  • 使ってよいサービス: 契約したものだけか、個人アカウントも可か。学習に使われない設定になっているか
  • 成果物の扱い: AIが作ったものを社外に出すとき、誰が確認するか。確認した記録をどこに残すか
  • 効果の測り方: 何を測って効果とするか。実感ではなく、時間・件数・エラー率のどれかで定義する
  • 次に広げる業務: 議事録の次にどこへ広げるか。その判断を誰がいつ行うか

経営会議に1枚で出せる粒度です。ここが決まっていれば、白書のいう「組織的な取組」の側に入ります

1つ目のデータの線引きは、「社内データを外に出せない」と言う前に確認する3つの層で具体的に扱っています。外に出せないデータが多い場合の選択肢はローカルLLMとは 社内データを外に出さずにAIを使う仕組みと限界にまとめました。

現場メモ

私たちが相談を受けるとき、「議事録は効果が出たので、次は基幹業務でも使いたい」という順番で来ることが多くあります。白書の数字は、この道筋が日本企業に共通していることを示しています。

ただ、議事録で効いた理由と、基幹業務で効く理由は違います。議事録は入力が音声で、出力の正しさを本人がその場で判断できます。基幹業務は入力が既存システムのデータで、出力が正しいかどうかを判断できるのは業務を知っている人だけです。同じ「AIを使う」でも、確認の設計が別物になります。

なので私たちは、議事録での成功体験をそのまま横展開する提案はしません。先に、その業務で何を正解とするかを発注側と一緒に言語化します。この工程は見積もりに載るので、着手が遅く見えます。それでも先にやるのは、正解が決まっていない業務にAIを入れると、動いているのに誰も良し悪しを判断できないものが残るからです。

使っているかではなく、決めたかで見ます

導入率で他国に追いついたことは、この1年の成果です。ただ、86.4%という数字は「うちも使っている」という以上のことを何も保証しません。

同じ調査の中で、日本だけが桁違いに高かったのは「組織的な取り組みはない」の27.0%でした。そして効果を実感できている場所は、個人が自分の手元で完結できる用途に偏っています。

次の1年で差がつくのは、導入率ではありません。決めた会社と、決めていない会社の間です。

進め方の全体像はAIネイティブ開発、判断を担う技術責任者が社内にいない場合の選択肢はAI CTO顧問で扱っています。

いま自社が27%の側にいるかもしれない、と思われた場合は、お問い合わせからご相談ください。5点のうちどれが決まっていないかを整理するところから始めます。