エージェント基盤を「自社の資産」にしたい方へ
エージェント導入の見積もりで「実行基盤の開発」に大きな金額が載っている方、あるいは特定ベンダーへの囲い込みを心配している方に向けて書いています。
結論から言うと、実行基盤そのものはもう買うものでも作るものでもなく、無料で手に入る部品です。一方で、囲い込みのリスクは消えていません。かかる場所が基盤から別の層へ移っただけです。契約前に見るべき場所が変わった、というのがこの記事の主題です。
8日で16か月分を追い抜きました
エージェントの実行基盤はハーネスと呼ばれます。何をする層かは入門記事に書きました。ここでは市場の動きだけ押さえます。
2026年8月21日時点の主要ハーネスのGitHubスター数です。
| ハーネス | 公開 | スター数 | ライセンス |
|---|---|---|---|
| opencode | 2025年4月 | 199,511 | MIT |
| DeepSeek Harness | 2026年8月 | 173,432 | MIT |
| Codex(OpenAI) | 2025年4月 | 107,096 | Apache-2.0 |
| Gemini CLI(Google) | 2025年4月 | 106,592 | Apache-2.0 |
DeepSeek Harnessの公開は2026年8月13日です。8日で、16か月かけて積み上がったCodexとGemini CLIの数を追い抜きました。その6日後の8月19日には、OpenAIが「Codexのハーネスの上に自社製品を作ってよい」と宣言しています。実装を隠して優位を保つ発想は、この1週間で成立しなくなりました。
留保を2つ付けます。スター数は利用実態ではなく注目度の指標です。そしてDeepSeek Harnessは開発者プレビュー段階で、互換性を壊す変更が予告されており、安定性への指摘も出ています。タダで手に入ることと、本番で使えることは別の話です。
乗り換え余地は互換レイヤが作っています
「無料の実装が増えた」だけなら、乗り換えはまだ大変です。実際に乗り換え余地を広げているのは、実装の数ではなく、層ごとに敷かれた互換の仕組みです。
| 層 | 仕組み | 状況(2026年8月) |
|---|---|---|
| ツール接続 | MCP | 主要ハーネスがほぼ共通で対応 |
| エディタ接続 | ACP | 40のエージェントが実装し、エディタ側からエージェントを差し替え可能 |
| 指示ファイル | AGENTS.md | Codex・Gemini CLIなど多数が採用 |
| モデル接続 | 互換API | DeepSeekはAnthropic互換のエンドポイントを公式提供し、Claude Codeから環境変数2つで自社モデルを使う手順まで案内 |
| ハーネス同士 | 公開プロトコル | DeepSeek HarnessはCodexとClaude Codeをサブエージェントとして呼ぶプラグインを同梱 |
注目すべきはモデル接続の行です。モデルベンダー自身が、競合のハーネスに自社モデルをつなぐ手順を公式ドキュメントで配っています。ハーネスを替えるコストも、モデルを替えるコストも、供給側が競って下げている構図です。
ロックインは消えずに移動しました
では囲い込みの心配は要らないのか。要ります。場所が3つに移っただけです。
1つ目はモデルの契約です。 ハーネスは無料でも、動かすモデルは従量課金です。しかも定額サブスクリプションを自社製品に組み込むことは主要ベンダーが認めておらず、たとえばAnthropicは公式ドキュメントで、サードパーティ製品での利用はAPIキー前提だと明記しています。月額プランの感覚で製品原価を見積もると崩れます。
2つ目は評価と統合の蓄積です。 自社の業務でエージェントがうまく動くかを確かめたテストケース、社内システムとの接続、失敗パターンへの対処。これらは特定のハーネスとモデルの組み合わせの上に積み上がります。実行基盤が入れ替え可能になった分、この蓄積こそが実質的な乗り換えコストになります。
3つ目は業務コンテキストです。 どの画面で、どのデータを見せ、どの操作に承認を挟むか。この設計は自社にしか作れず、どこへでも持ち運べます。ここを開発会社側のブラックボックスに置くと、基盤が自由でも実質は囲い込まれます。
契約前に確認する4点
エージェント開発の契約前チェック
- 実行基盤の内訳を出してもらう: 公開ハーネスが土台なら、その開発費は載らないはずです。「基盤開発一式」の見積もりには、何が公開部品で何が自社向け実装かの内訳を求めます
- モデル差し替えを仕様に入れる: 接続先モデルを設定で切り替えられる構成か。互換APIが普及した今、特定モデルに固定する実装は選ばない理由が要ります
- 評価データと統合コードの帰属を契約に書く: テストケース・接続実装・プロンプトが自社に残るか。実質の乗り換えコストはここに宿ります
- モデル費用は従量で見積もる: 定額プランの製品組み込みは不可が前提です。処理件数ベースのトークン試算を出してもらいます
RFPの契約条件と、見積もりの内訳確認にそのまま使えます
発注側にとっての意味
「実行基盤の開発費」と「特定基盤への囲い込み」を心配する時代は終わりつつあります。代わりに、モデルの従量費用と、評価・統合・業務コンテキストの帰属が契約の焦点になりました。見積もりを受け取ったら、基盤の内訳と蓄積物の帰属から確認してください。
ハーネスという層が何をしているかはエージェントの本体はハーネスですに、導入路線の仕分けはAIエージェント導入の2つの路線に書きました。自社の場合の費用構造と契約条件を整理したい場合は、お問い合わせからご相談ください。見積もりの内訳を読むところからお手伝いします。
