「AI人材が何人います」という提案を受けた方へ
ベンダーの体制表にAI人材の人数が並んでいて、その数字をどう読むか迷っている段階の方に向けて書いています。
先に結論を書きます。見るのは総数ではなく、そのうち自社の現場に来る人数です。この2つは同じ会社の資料の中でも桁が違います。
決算資料に書かれた数字
日立製作所が2026年7月29日に公開した2027年3月期 第1四半期 連結決算の概要に、人数の計画が並んでいます。
| 人材の区分 | 2026年7月時点 | 2026年度末の計画 |
|---|---|---|
| 国内FDE人財 | 約300人 | 約1,000人 |
| 海外FDE人財 | 約100人 | 約350人 |
| 高度AI人財 | 約5,800人 | 約13,000人規模 |
FDEは資料の脚注でForward Deployed Engineerと定義されています。顧客の現場に入って実装まで担う職種で、定義そのものはFDEとは何かで整理しました。
高度AI人財は「高度なAI技術を習得し、AI活用による業務変革・ソリューション開発を牽引するエンジニア/アーキテクト」と定義されています。総数は約13,000人へ向かうのに、現場に入るFDEは国内外あわせて約1,350人です。
同じ月にIBMも同じことをしています
IBMは2026年8月13日、OpenAIとの戦略的提携を発表しました。
読むべきはモデルの話ではありません。リリースの3つ目の要点に、こう書かれています。IBMは高度に専門化したエンジニアとコンサルタントの「forward-deployed units」を顧客のもとへ送る。そして「OpenAI Practice」という専任組織を立ち上げ、数千人規模がOpenAI Partner Networkの上級認定を取得する、と。
forward-deployedという語をIBM自身が使っている点が重要です。日本の大手が使っているFDEと、同じ発想が同じ月に並んでいます。
逆になっていませんか
ここが本題です。
AIでコードを書く速度は上がりました。素直に考えれば、実装に張り付く人は減るはずです。ところが両社とも増やしています。日立は国内のFDEを1年足らずで3倍以上にする計画で、IBMは数千人に認定を取らせています。
減らないのは、速くなったのが実装だけだからです。何を作るかを決める工程と、動いたものを既存の業務へ載せる工程は速くなっていません。この非対称は工程を50%削ってもでも触れました。速くなった工程の前後に人が要るという結論を、両社が人数の計画という形で出したことになります。
脱・人月と人を増やすことは両立します
日経クロステックがこの動きを「脱・人月へFDE拡充に意欲」という見出しで報じています(2026年8月17日。本文は有料のため、本記事の数字はすべて日立の決算資料とIBMのリリースから取りました)。
人月から離れると言いながら人を増やす。矛盾に見えますが、両立します。人月をやめるというのは人を減らすことではなく、時間ではないもので課金するということです。
だから発注側の確認は自然にここへ向かいます。人を増やした分は、何に紐づいて請求されるのか。時間でないなら成果か、成果でないなら定額か。契約形態の選び方は開発が速くなった分は誰のものかで整理しています。
提案で確かめること
AI人材の体制表を見るときの5つの確認
- 総数と派遣数の区別: 社内のAI人材が何人かではなく、自社の現場に何人来るか
- その人たちの職務: 開発を代行するのか、自社の担当者と一緒に作って引き継ぐのか
- 課金の単位: 増員分は時間で請求されるのか、成果や定額に紐づくのか
- 育成中かどうか: 計画上の人数と現時点の人数が違う場合、自社に来るのはどちらの層か
- 引き上げの条件: 常駐が終わるのはいつか。そのとき運用を持つのは誰か
ベンダー面談で体制表を示されたときに、その場で確認できます
4つ目は特に効きます。今回の2社の数字はどちらも計画値です。日立の1,000人は年度末の姿で、7月時点は約300人でした。提案時点の体制表がどちらを指しているかで、実際に来る人の経験は変わります。
数字を並べる前に区別してください
約13,000人と約1,350人。同じ会社の同じ資料に載っている数字です。どちらも本当で、誇張はありません。
ただ、発注側にとって意味があるのは後者だけです。AI人材が何人いても、自社の現場に来ないなら自社の案件の速度は変わりません。
ベンダーの規模を測る話ではなく、自社の案件に何が割り当てられるかを見る話です。実装が速くなった今、受託が何を売るのかという議論は実装が速くなった今受託開発は何を売るのかで書きました。人数の計画は、その問いに大手が出した一つの答えとして読めます。
自社の業務にどこまで人が要るのか、体制の設計から相談したい段階でしたら、お問い合わせからご連絡ください。
