目次
  1. 基幹システムのデータをAIに見せる相談を受けている方へ
  2. 何が発表されたのか
  3. 同じ会社の2つのサービスを並べます
  4. 差は「つなぐ先が決まっているか」です
  5. 設定費用が見積もりの本体です
  6. 権限は接続とは別に決めます
  7. 60社という目標の読み方
  8. 数字の出どころと限界

基幹システムのデータをAIに見せる相談を受けている方へ

社内の受発注や売上のデータをAIに分析させたい、という話が出ていて、ベンダーから提案を受けている段階の方に向けて書いています。

AIの機能そのものより、そのAIが自社のデータへどう届くかが見積もりを決めます。同じ会社が2か月の間に出した2つのサービスを並べると、その境目がはっきり見えます。

何が発表されたのか

MCPコネクターとは、AIエージェントが外部のデータやツールを呼び出すための共通の作法に沿って、特定のシステムへの接続を担う部品です。AIごとに個別の接続を作る代わりに、決まった形式で「このデータを読める」と宣言します。

大塚商会は2026年9月10日、基幹業務システムの「DX統合パッケージ」とAIエージェントをつなぐDX統合パッケージ連携AIエージェントを発表し、9月14日から提供すると公表しました。公開されている条件です。

項目と内容 補足
接続方式:自社開発のMCPコネクター オンプレミス環境のデータベースへ
対象データ:受発注、売上、仕入、営業日報 販売管理システムが持つもの
構成:販売分析エージェントと営業支援エージェント 2つに分かれています
価格:既存サービスの料金内 設定費用は別途で金額は非公表
販売目標:12か月で60社 実績ではなく目標です

このうち価格の行が、今回の主題です。

同じ会社の2つのサービスを並べます

同社は2026年7月にも、生成AIとの対話で業務のプログラムを作る業務プロセス自動化AIサービスを30万円から始めています。2つを並べます。

比べる軸と内容 7月のサービス 9月のサービス
価格:発注前に金額が分かるか 30万円から 料金内、設定費は別途
販売目標:12か月で何社か 100社 60社
月あたり:目標を12で割った社数 約8社 5社
つなぐ先:どこのデータを扱うか 型が決まった業務 各社の基幹データベース

7月の記事で書いたとおり、月8社を捌く体制では1社ごとに要件定義からやり直せません。だから型が決まっていて、価格が出せます。

今回は月5社に落ちています。同じ会社が、同じ12か月で、社数の目標を4割減らしました。機能が減ったわけではありません。1社あたりに割く工数が増える前提だからです。

差は「つなぐ先が決まっているか」です

型が決まった業務にAIを当てる場合、作業は毎回同じ形をしています。だから価格を先に出せます。

基幹データベースにつなぐ場合は違います。同じ製品を使っていても、テーブルの使い方、項目の意味、運用で埋めてきた例外は会社ごとに違います。接続の作業は、AIの機能ではなく相手側の状態で決まります

価格を出せる側と、出せない側 型が決まった業務に当てる 30万円から 作業の形が毎回同じ テンプレートを増やして広げる 12か月で100社の目標(月8社) 各社の基幹データにつなぐ 設定費用は別途 項目の意味と運用が会社ごとに違う 相手側の状態で工数が変わる 12か月で60社の目標(月5社) 同じ会社の2つのサービス。価格の書き方の違いは、つなぐ先が決まっているかどうかに対応している
販売目標を12で割ると、1社あたりに割ける工数の想定が読めます。価格の非公表は、隠しているのではなく決められないという意味です。

この構造は、前日に扱ったロボット導入の設定作業と同じです。機体やモデルの値段は先に出せて、現場ごとの設定は出せない。AIの世界では、繰り返し同じ形が出てきます。

設定費用が見積もりの本体です

発注側がやることは決まっています。設定費用の見積もりを先に取り、その内訳を聞くことです。

内訳で聞く3つ

  • 対象にするテーブルと項目の数。全部か、まず一部か。増やすときの追加費用
  • 項目の意味を誰が決めるか。「この列は何を指すか」を答えるのは自社の担当者です。その時間は自社の費用になります
  • 質問と項目の対応付け。自然言語で聞いて正しい答えが返るかは、聞き方と項目のひも付けで決まります。この調整を何往復と見込んでいるか

2つ目が見落とされます。AIに基幹データを読ませる作業で一番時間がかかるのは、接続そのものではなく項目の意味を言葉にする作業です。仕様書の残っていないシステムを調べる手順と同じで、これは外注できません。

権限は接続とは別に決めます

MCPでつないだ先に、誰が何を見られるかは自動的には決まりません。エージェントに社内データを見せる判断の回で扱ったとおり、ツールを絞るだけでは足りず、行や列の単位で誰に見せるかを決める必要があります。

営業日報には個人の活動が入ります。売上には取引先ごとの条件が入ります。チャットで聞けば誰でも答えが返る状態は、便利であると同時に、権限設計が消えた状態でもあります。導入の前に、部門をまたいだ閲覧の可否を決めておきます。

60社という目標の読み方

販売目標は12か月で60社です。この数字は製品の性能を語りませんが、2つのことを示します。

  • 1社あたりに想定している工数。月5社のペースは、7月のサービスより手がかかる前提です
  • 参照できる事例が増える速さ。12か月後に60社なら、同業の事例を見てから決めたい会社は待つことになります

導入社数は自社で効く根拠になりません。ただし目標のペースは、提供側が見込んでいる手間の量を教えてくれます。

基幹データへAIをつなぐ見積もりで聞く5項目

  • 設定費用の内訳。対象テーブル数、項目数、接続の開発、テスト。どこまでが初期費用で、どこからが追加になるか

  • 項目の意味を誰が決めるか。列の意味と業務ルールを言葉にする作業を、自社の誰が何時間で担うか。ベンダー側の想定工数も聞く

  • 回答の検証方法。自然言語の質問に返る数字が正しいかを、誰がどう確かめるか。既存の帳票と突き合わせる手順があるか

  • 権限の単位。部門、取引先、担当者の粒度でアクセスを分けられるか。営業日報のような個人の記録をどう扱うか

  • 接続先を増やすときの費用。2つ目の業務システムをつなぐとき、初回と同じ費用がかかるか、安くなるか

    ベンダーの提案説明と、稟議の費用欄の確認に、そのまま使えます

現場メモ

私たちは基幹システムのパッケージを売る側ではありません。発注側に立つCTO顧問と、その外側の実装を担当しています。この種の案件で最初に見積もるのは、AIの部分ではなく接続の部分です。

正直に書くと、接続の見積もりは初回の調査をしないと出せません。私たちも「テーブル一覧と、主要な項目の意味が分かる資料を先に見せてください」とお願いします。それが無い会社のほうが多く、その場合は調査の費用を別に置きます。金額を先に出せないという点では、今回のサービスと同じ立場です。

もう1つ。自然言語で聞けるようになると、最初の1か月は質問が増えます。そのとき返ってくる数字が正しいかを確かめる人が要ります。私たちは導入の初期に、既存の帳票と突き合わせる期間を必ず見積もりへ入れます。ここを省くと、間違った数字が会議資料に載ってから気づくことになります。

数字の出どころと限界

この記事の数字は、大塚商会が2026年9月10日に公開したプレスリリースに基づきます。MCPコネクターによるオンプレミス環境のデータベース連携、対象データ、2つのエージェント構成、2026年9月14日の提供開始、価格が既存サービスの料金内で設定費用が別途であること、12か月で60社の販売目標は同リリースの記載です。2026年12月末日までの申し込みで設定費用を無償にするキャンペーンも記載されています。7月のサービスの30万円からと12か月100社は同社の7月24日の発表によるものです。

設定費用の金額、導入にかかる期間、回答の精度、対応できるデータベースの種類は公開されていません。この記事の「つなぐ先が決まっているか」という整理は、2つのリリースの公開情報から発注側の視点で読み取ったもので、提供側が示した区分ではありません。

基幹システムのAI化で標準の外に残る部分はERPのエージェント化の回に、見積もりの幅が何を意味するかは900人月の回に書いています。既存システムとAIをつなぐ部分の相談は、お問い合わせからお送りください。

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