目次
  1. ロボット配送の提案を受ける立場の方へ
  2. 何が始まったのか
  3. 全部が「段階的に緩める」設計です
  4. 速度は設定値ではありません
  5. 使う機体の仕様は7.2km/hです
  6. 随行から遠隔へ移すと、枠が変わります
  7. 3行で言えること
  8. 提案を受けたときに確認すること
  9. 見るのは走る姿ではありません

ロボット配送の提案を受ける立場の方へ

物流や店舗運営で、配送ロボットの導入を検討している方に向けて書いています。

デモを見て確認すべきなのは、走るかどうかではありません。どの制度の枠で走っているかです。日本では、そこが速度と手続きの両方を規定しています。

何が始まったのか

2026年8月24日、東京都渋谷区の笹塚エリアで、自律走行ロボットによるフードデリバリーの実証が始まりました。9月30日までの予定です。

出前館、Neubility、シブヤスタートアップス、京王SCクリエイションの4社による取り組みで、渋谷区の実証支援プログラムに採択されています。使うのはNeubility製の「Neubie」。カレー店とコーヒーチェーンの2店舗から、各1台が商品を運びます。

出前館が都内の公道で本格的な実証を行うのは、これが初めてです。

全部が「段階的に緩める」設計です

発表と報道を並べると、この実証の設計が見えてきます。

項目 開始時 その後
配送範囲 半径300m 最大約1kmへ拡大
対象エリア 笹塚1・2丁目 幡ヶ谷・上原・大山町ほかへ
監視 スタッフが随行 8月31日から遠隔監視
積載 25kgに抑えて実施

範囲は狭いところから広げ、監視は人が横についた状態から遠隔へ移し、積載は抑えて始める。全部が同じ形をしています

走行エリアには幹線道路である甲州街道の横断が含まれ、狭くて人通りの多い道も通ります。機体は10cmまでの段差を越えられ、それ以上の障害物があれば回避コースを探します。信号の色を認識し、青になるまで待ちます。

速度は設定値ではありません

ここが本題です。

日本では2023年4月1日施行の改正道路交通法により、一定の基準を満たす自動配送ロボットが「遠隔操作型小型車」として歩道を通行できるようになりました。基準は内閣府令に書かれています。

要件 内容
大きさ 長さ120cm・幅70cm・高さ120cmを超えない
原動機 電動機を用いる
速度 6km/hを超える速度を出すことができないこと
構造 歩行者に危害を及ぼすおそれのある鋭利な突出部がない
装置 基準に適合する非常停止装置を備える

読みどころは速度の書き方です。「6km/h以下で走らせること」ではありません。6km/hを超える速度を出すことができない構造であること、と書かれています。

型式認定の試験方法では、速度を調整できる機体はその最大値にセットして測定すると定められています。設定で落とした状態は測ってもらえません。

つまり制度は、ソフトウェアの設定を信用していない。出せないことを構造で示せと求めています。

使う機体の仕様は7.2km/hです

Neubieの製品仕様として公開されている走行速度は、最大7.2km/hです。韓国で公道走行の安全認証を取得した機体として紹介されています。

日本の基準は6km/hです。1.2km/h超えています。

この差をどう埋めたのかは、今回の発表からは読み取れません。日本向けに構造を変えた個体を使っているのか、別の枠組みで走らせているのか。どちらもあり得ますが、公開情報では確定できません

公道を走らせる3つの枠 随行者が1〜2m以内にいる 歩行者と同じ扱い。届出番号の表示なし 届出は不要 遠隔操作型小型車として遠隔操作 6km/h・120×70×120cm の基準内であること 公安委員会へ通行開始の1週間前までに届出。番号を車体へ表示 基準を上回る機体で走らせる 速度や大きさが基準を超える場合 道路使用許可に加えて保安基準緩和認定が必要 同じ機体でも、人が横にいるかどうかで枠が変わる
警察庁の資料では、機体の1〜2m以内に人がいるかどうかが枠の識別点として示されています。監視の方式は運用の都合ではなく、手続きの区分に効きます。

随行から遠隔へ移すと、枠が変わります

さきほどの表に戻ります。8月24日から1週間はスタッフが随行し、8月31日から遠隔監視へ切り替える、という設計でした。

警察庁の資料では、公道を走るロボットの枠を見分ける点として、機体の1〜2m以内に人がいるかどうかが挙げられています。随行者が近くにいれば歩行者と同じ扱いで届出は不要、遠隔操作で走らせるなら届出番号を車体に表示する、という具合です。

つまり随行から遠隔監視への切り替えは、慎重さの度合いを変えただけではありません。必要な手続きの側も動く可能性がある、ということです。

この実証がどの枠に当たるのかは、発表資料からは分かりません。分からないこと自体は問題ではなく、提案を受ける側が聞けばよいというだけです。

3行で言えること

制度は速度を「守れ」ではなく「出せない構造にしろ」と書いています。

安全を設定値で説明する提案は、日本の公道では通りません。

現場メモ

私たちはロボット本体を作りません。作るのは、その手前と後ろにあるシステムです。だからこの手の実証で最初に見るのは、機体の性能ではなく運用の切り替え点です。

今回でいえば8月31日。人が横についた状態から遠隔監視へ移る日です。この日を境に、何がどう変わるのかを説明できる提案かどうかで、話の質が分かれます。

範囲を300mから1kmへ広げる条件も同じです。何件事故がなければ広げるのか、何を測って判断するのか。そこが決まっていない「段階的に拡大します」は、予定表であって設計ではありません。

提案を受けたときに確認すること

配送ロボットの提案への4つの質問

  • どの枠で走らせますか。届出による遠隔操作型小型車か、道路使用許可による実証か

  • 速度は構造上いくつですか。設定値ではなく、出せる最大値を機体の仕様で答えてもらう

  • 随行から遠隔へ移す条件は何ですか。日数だけか、測る指標があるか

  • 範囲を広げる条件は何ですか。何を確認できたら次の区画へ進むのか

    ロボットSIerや物流ベンダーとの打ち合わせ、実証の企画書レビューでそのまま使えます

見るのは走る姿ではありません

配送ロボットが街を走る映像は、それだけで説得力があります。ですが導入を決める材料としては、走っている姿よりどの枠でどこまで許されているかのほうが効きます。

先日書いた遠隔操作は0.5倍で数えられますでは、人型ロボットの競技で自律と遠隔操作が別々に採点される話を扱いました。競技のルールと日本の道路の制度は別のものですが、見ている点は同じです。そのとき人がどこにいたかを数えています。

自社の現場でどこから試すかを整理する段階でしたら、お問い合わせからご相談ください。工程の切り分けと、既存システムとの接続からご一緒します。


出典

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